2013年5月22日水曜日

アルカナハート回想録7



【ゲーム内容をまとめる】

ここまでで出たアイデアを、もう一度「格ゲーヒットの法則」に当てはめて、まとめ直してみるとこうなります。
自己採点つきで。

・◎メインシステム:アルカナセレクト
ゲームシステムと世界観との融合、それに少ないキャラクター数で遊びの幅を増やせたことは、私的にはうまくいった部分かなと思っています。ただ、かなり複雑な要素なので続編の製作に関しては非常に困難になってしまいました。

・◎サブシステム:ホーミング
他の格闘ゲームにない特徴を出すといった点、成熟してアイデアが出づらいジャンルでの新要素という点では、頑張った方かなと思っています。粗削りだった部分ももちろんありますが、続編ではシステムとしての完成度が高まったのではないでしょうか。

・○背景変化:聖霊空間
世界観との融合の点や、知っている風景の別の姿が見えるという面白さの点では満足しているのですが、基板のスペック、予算、期間などの問題で、動かない一枚絵にならざるを得なかったのが心残りです。対戦中にモブをおけない代わりとして開始前演出があったのですが、この仕様もカットされたのも残念でした。

・○特徴的な主人公:アホ毛、リボン
キャラクターの魅力はデザイン担当の瑞姫氏とシナリオ担当のさくらい氏の力が大きいですが、ゲームを代表するキャラクターの作成という点では、念願だったアルカディア大賞を頂けるなど、一定の評価はしてもらったのかなと思っています。製作しながら設定をいじくり回してしまったので、少々ちぐはぐな部分が残ってしまったのが心残りですが、シリーズの中では、今でも一番好きなキャラですね。

・△最先端のグラフィック :なし、見せ方で補完
コストと基板スペックの問題が大きいとはいえ、当時の最先端にまで到達できなかったのは残念です。その分、これまでにない演出を入れる事で、及第点くらいにはなったかなと。

・×誰が強いかのコンセプト:なし、シナリオで補完
ここは反省点です。シナリオで闘う理由付けを補完してもらえたので、なんとかなったかなという具合です。
後から「アルカナ側に戦う設定を持たせればよかったんだ」と思い付き、この発想がデモンブライドへと繋がっています。

企画当時の事を思い出しながら書き連ねてみましたが、当然、個人で考えたばかりのアイデアではなく当時の優秀なスタッフがまわりにいて出来上がったものでした。

ここまで書いてみて、自分が思っていたよりも、かなり長い文章になってしまいました。
開発現場ではこのあと、胃の痛くなるような、いろいろな事件が巻き起こるのですが、またの機会にでも書ければいいなと思います。

長文にここまで付き合っていただいた方、ありがとうございます。

2013年5月10日金曜日

アルカナハート回想録6



6.キャラクター数

当時、市場に出ていた格闘ゲームにはキャラ数が20人以上いるのが当たり前でしたので、流行らせるためには一作目とはいえ最低でも16体くらいが必要。
しかし、制作費はどう考えても10体分くらいしかないわけです。

そこで、メインシステムの所で考えた、”キャラとシステムを選ぶ”というアイデアを組み込んでみたんですね。
キャラが10体しか作れないなら、システムも10個つくって、かけて100体分遊べるってのはどうかと。

組み合わせが100通りと言うのは、同じキャラでも何回か遊んでもらえるし、宣伝文句としても通りがいい、何よりも面白そうだなと。

しかし、こんなシステムを作ると、システムも調整もめちゃくちゃ複雑になるし、キャラを足す毎にシステムとの掛け算をしなきゃいけなくなってしまう。
実際、フィオナ一人追加するだけで100通りから、122通りの組み合わせに増えてしまった。

なので、このシステムをいれる時点で、続編の製作は諦めていました。

7.魅力的な主人公
人気のある格闘ゲームは例外なく主人公のキャラがたっています。例えキャラ人気が低かったとしても、主人公を見ればゲームの内容や世界観が理解できる。そういう存在です。

なので、愛乃はぁとのデザインには、かなり時間をかけました。

主人公をデザインするにあたり、まずはゲーム全体の世界観を固めるため、いろんなアニメや漫画を調べまくりました。忙しいこともあって、アニメや漫画をみる機会が減っていたので、当時の流行りモノをスタッフに聞いたりネットで調べたりして、まとめて見ました。

その時見たものや過去の記憶から、いろんなアイデアは借りてきてますが、中でも特に参考にしたのが「ネギま」「リリカルなのは」「舞-乙HiME」ですかね。

流行っているものを調べていると、この3作品の共通点が「女子中学生が空を飛びながら魔法を使って闘う」って事だった。

あぁ、これか、とストンと落ちた。

企画当初は「舞姫」とか「一騎当千」あたりのイメージしていたので、主人公が高校生だったんですね。
で、製作途中で「舞-乙HiME」が発表された時に、主人公が中学生になっちゃってる。
完全にアニメキャラの流行りが中学生まで落ちてたんですよね。だから無理を言って、中学生という設定にしてもらった。

はぁとのグラフィックがある程度出来てきてから、中学生に変更させた犯人は私ですね。

で、女子中学生が闘うことが決まったので、納得出来るそれらしい設定が必要。ということで生まれたのが、妖精や天使の力を借りて、空を飛び魔法で闘う。というものでした。はぁとがパルちゃんのことを「天使さん」と呼んでいるのはその名残ですね。

以前から神智学とか妖精の存在の議論には興味があって、いつかネタにならないかなと思っていたのが、ここでピッタリとはまりました。

実話で”コティングリー妖精事件”って言うのがあって、少女が撮影した妖精の写真をめぐって、イギリス中が大騒動になった事件。コナンドイルとかも関わってた実際に起きた事件です。フェアリーテイルという映画にもなってます。
「女の子だけがアルカナを見ることができる」と言う設定は、このお話がベースになっています。

世界観がまとまり、ようやく主人公のデザインです。2000年代前半まで萌え系アニメの主人公は大体、特徴的な髪型をしているもんでしたが、キャラのニーズは段々と地味な方に向いてきている頃でした。ときメモの主人公の経緯を見ればわかりやすいですね。

この当時、主流になりかけていたのは、見た目は普通で、性格や物語の位置付けでキャラを作っていく方法。
しかし格闘ゲームの場合はそういうわけにはいかない。一目見て記憶に残るキーワードが必要なんですね。そして黒く塗りつぶしてもシルエットでわかる方がいい。ミッキーマウスやキティがこの典型ですが、格闘ゲームの主人公として定着しているキャラを並べても、だいたいはこの条件はクリアしてる。

そこでハート型のアホ毛というアイデアが出た。
これならシルエットがはっきりわかって印象も強い。
単純なアイデアだけど有名な前例もなかった。

このキーワードが決まれば後は早い。
これまで何度も没にしてきたキャラのパーツを組み合わせて完成。最後に格闘ゲームの主人公といえばハチマキだろうと言うことで、いろいろ試してみたけれどうまく行かなかったのを担当デザイナーがドット絵の腕にリボンを巻いたのが好評で採用となりました。

基本ポーズが、格闘家っぽい構えなのは、いまいち世界観やゲーム性が固まりきらないまま作り始めたので、そのなごりですね。

平行して他のキャラのデザインを進めるわけですが、正直、私にもゴールが見えていないので、デザインをみてもいまいちしっくり来ない。
で、またデザインを起こしてもらうんですが、没を繰り返すということを何度もやってしまった。
デザイナーには本当に苦労をかけたと思います。

と、ここまでで「7つの法則」はおしまいです。
文章にすると順序よくアイデアを出しているようですが、実際には、発案と没の繰り返しで、何度も何度も打ち合わせを繰り返して、ようやく答えにたどり着く、というような作業を延々とやっていました。

2013年5月8日水曜日

アルカナハート回想録5



3.独自性を出すサブシステム

アルカナハートでは「ホーミング」がサブシステムにあたります。
これは当時、スト3サードで言うところのブロッキングに値するシステムとして考えたものです。
えっ!って思うかも知れませんがそうなんです。

根強いファンがついている格闘というのは、なにかひとつ他のゲームにはない特徴を持っていますよね。例えばジェムだったりジャストディフェンスだったりとか。 キャラ単体で見ても特徴的な技をもつキャラは長く愛されます、炎邪とかズィーガーとか。

固有のサブシステムによって、独自の立ち回りが必要となる。
この部分が無いか薄いと、他の格闘ゲームでいいじゃないかと言うことになり、逆に突出しすぎていると他の格闘ゲームで培ったセオリーが通じずプレイ層が狭くなるか、バランス崩壊を起こしてしまう。まさに諸刃の剣ですね。

ホーミングのシステム案はかなり初期からあって「打ち上げて追いかけて叩き落とす」という一連のコンボを、サムスピの絵を使ってテストしていました。
イメージ動作を簡単に作って、プログラマさんに、こんなことやりたいんだけど出来る?みたいな感じで。

正直、このシステムは行けると思っていました。
元々2D格闘というのは横軸移動での読みあいが適しています。そこへ2段ジャンプ、空中ダッシュなどの要素が入ってきて縦軸の移動の自由度が増えた。
そうすると当然、キャラ同士が接触する機会が減ります。
対処作として、技のあたり判定を大きくするか、でかい飛び道具を打つゲーム性になっていくわけですよね。

ホーミングは、ボタンひとつで必ず相手と接触する位置まで移動できるので、縦や横への移動範囲が広くなっても、どこかで必ずキャラが接触できる。
ホーミングのおかげでこれまでにないほど画面を動き回れるゲームデザインにすることが出来ました。

4.画期的な背景演出
ステージについては、天草降臨の天草空間や、飢狼伝説でのラウンド数や時間経過で変化するといった演出に影響を受けていて、世界感を説明するだけでなく、状況の変化をわかりやすく見せることが出来る優れた見せ方だとずっと思っていました 。
プレイしていない人や、ゲームシステムやキャラをよくわかってない人は、見ているだけでも、画面の変化を感じられますしね。

特にパワーアップ時に背景が変化するという要素は、ゲーム展開のメリハリと連携でき、気分も盛り上がるので、入れ込みたかった。

たまたま、アルカナで使っていた基盤というのが、一度にたくさんの絵を読み込んで置くことができたので、広大なフィールドを2枚分をロードを行わず切り替えることが出来たんですね。

世界観設定も同時に考えていたので、じゃ、今見えている背景とは別に平行世界があって、パワーアップした時に平行世界が見えるのはどうかなと考えて、それならば実際にある場所の方がいいよね。って流れで、実在の場所をステージに使うことになりました。
関東が舞台になっているのは、学園物なので地域を限定しようってのもありますが、どちらかといえば単純にプレイヤー人口が多かったからです。
この時は、海外展開も一切考えていませんでしたし。


5.最先端のグラフィック

最先端のグラフィックだけはどうしても実現が出来なかった。何故かというと2D格闘のコストのほとんどはグラフィックにかかるからです。
制作費=グラフィックのレベルと言っても良いくらい。

正直、潤沢とは言えない制作費だったので、かなりコストダウン出来る方法で作画してはいますが、それでも動作枚数は大幅に削る必要がありました。
初代アルカナハートは、当時の他のゲームと比較しても、技の数が少ないのは単純に制作費の問題です。

私の中では、これだけ技が少ないなら対戦格闘とは呼べないんじゃないかというのもあって、ジャンルが対戦アクションになっています。

でも、実ははぁとだけ動作が多いんですよ。
例えば、空中専用のアルカナ技アクションがあるのは、はぁと冴姫だけですね。
最初にはぁとを作ってみると結構時間がかかった。で、他のキャラを作る際には動作枚数を削らなければいけなくなり、地上モーションの足元に魔方陣を置いてみたら、全然違和感ないので、じゃ、他のキャラはなくしましょうと。
そうやって、かなりの工夫を重ねて枚数を減らしてます。

しかし、極限まで動作を減らせといっておきながら、ホーミングだけは削らないでくれ、と。この動作だけは、他のゲームとの差別化に必要でしかも使い回しが効かない。

ゲームを作りかけでまだ完成形を模索していたこともあって、グラフィッカーからはホーミング動作を削ってくれと随分言われましたね。でも、お願いだから残してくれと。 舞織なんかはどの方向を向いてても同じ絵で済むようにしてでも残しました。

それじゃ、削るだけ削っておしまいかと言えばそうではなく、別の工夫を盛り込んでいます。それがアルカナブレイズです。グラフィックを綺麗に出来ないのであれば、見せ方を工夫しようということで、最初にパルティニアスの巨大玉が出来た。さすがにあそこまで大きい飛び道具を2D格闘では見たことがないだろうと。
そうするとスタッフからいろんなアイデアが出てきて、逆にすごく小さいテンペスタスなんかが生まれてきたんですね。